左に右折

小説書きリハビリ用

気に食わない奴の話。

初めて会った時から直感的に、「あ、こいつとは合わないな」と思った人よりも、「なんだ、ふつーそうなやつだな」と思った人の方が苦手になっていくことはあることで、最初に普通であることを期待してしまっているからそのあとの評価は落ちていくしかない、ということを考えると、第一印象というのは高評価すぎてもよくないのかもしれない、なんて思う。

うちのビルはよくある高層のIDカードで入場するタイプのやつで、そこそこの規模の会社なもんだから毎朝の通勤時にこの人たちみんなこのビルに出勤するのか、大変なもんだなーと思ってしまう。その大変な人たちぶんの1に自分も含まれているというのは言うまでもない。

出勤したら、まずメールチェックと、スケジューラの確認、それからもろもろのチェック。朝一の時点でだいたいの今日のタスク量が分かるし、問題が発生していれば朝のミーティングで共有意識が持てるから、朝一のこの時間は何気に一番大事な気がする。

私と比べてやつの出勤はだいたい5分前。それでも遅刻してないんだからいいほうかな、とは思う。思いはするのだけど、席が隣なものだから、朝から特にチェックもせずにだらんと椅子に腰掛けてる彼は、きっと仕事に関しては何も考えていないのだろうなということがうかがえた。勝手な推測ではあるけれど、朝一でメールより先に自分の携帯端末を開いているくらいだからまぁ、間違い無いと思う。

「木原君ってさ」

「はい?」

話しかけられると思っていなかったであろうトーンで返事。口調は一見しっかりしてるように見えてこいつ日本語が怪しいんだよな……という話はさておき

「朝のメールとかって確認してる?」

えーと、とマウスを動かしながら、どれですか? ってそうじゃねぇんだよなァと、ため息つくしか無い。怒ってはいないのだ、呆れるほど仕事ができなくて、しかもそのくせ自分は仕事ができるつもりでいるから、なんていうか、もはやいっそ道化だな、なんて思う。

「……いや、まぁいいや、後で情報共有するけど、メールはちゃんとチェックしてね」

なんかこないだも似たような台詞言った気がすんなーと思いながら、私は自分のPCに向き直る。

気をつけます、という返事は片耳で聞き逃しておいた。どうせ期待したところで、メールチェックをして、そこにどんな懸案があって自分がどう関わるかまでは見えていない指示待ちくんに、私が何言ったって今更無駄なことだ。

「秦野さんて」

「…なに」

無駄口叩いてないで、自分のタスク今日までだよ君。

「仕事できそーですよね」

「……そう?」

君ができなさすぎんじゃ無い? 向いてないよ、この仕事。

さすがに言えない言葉を脳内で吐き出しまくって、たぶんいつかこの性根の悪さもバレんだろうなぁとは思いながらも、またため息。

彼の携帯端末に着信しているメッセージはたぶん彼女さんなのだろう。勤務中は仕事しようね? と思いながら、未だにそれを口に出せたことはない。

君と違って、私は仕事が恋人なんだよ。